土曜日の朝8時。イギリス時間だ。まだ街がゆっくり目を覚ましている頃、自分はリーズのどこかで、たぶん少し物足りないコーヒーを片手に、スフィーダ世田谷対ニッパツ横浜FCシーガルズを観ているはずだ。
天気予報は、この日も暑いらしい。この一週間のイングランドは、まるで南ヨーロッパになったつもりだった。気温は30度近くまで上がり、国民の半分は「エアコンが必要だ」と騒ぎ、もう半分は「これくらい普通じゃん」と言い張っている。
いや、普通じゃない。
今週の昼休みも散歩に出たけれど、3分もしないうちに後悔しちゃった。
一方その頃、東京もまた別の夏と向き合っている。湿度も違う。日差しも違う。でも、「なんで自分からこんな暑さの中に飛び込んでるんだろう」って思う気持ちは同じだ。
考えてみると、それってサッカークラブを応援することにも妙に当てはまる。
スフィーダに必要なのはリアクションだ
スフィーダは、結果だけじゃなく内容でも反応を見せなければならない。
先週の岡山湯郷Belle戦の0-2敗戦は、観ている途中から記憶が薄れていくような試合だった。正直、キックオフ前に食べた寿司のほうが印象に残っている。マグロは薄くて、少し物足りなくて、中身も軽かった。
今の攻撃陣みたいに。
地味な敗戦ほど、あとを引く。4-3の撃ち合いなら、時間が経てば「名勝負だった」と語られる。でも、味気ない0-2は、未払いの駐車違反みたいに頭の片隅へずっと居座る。
というわけで、またこのカードだ。
スフィーダ対シーガルズ。
7位対9位。
勝点16対勝点15。
その差は、たった1ポイント。
こういう順位になると、みんな「勢いが大事」なんて言い始める。本当は「何が起こるか誰にも分からない」ってことなんだけど、そのまま言うと専門家っぽく聞こえないからだ。
このカードがいつも不思議な空気になる理由
実は、この対戦にはちょっと複雑な感情がある。
昔、横浜に住んでいた。
マリノスを応援している。
ただ、マリノスには女子チームがない。
だから、自然と別のクラブにも目を向けるようになった。
そのひとつが横浜FCシーガルズだった。
でも問題は、横浜FCとのつながりなんだよな。
ここは少し慎重に言っておきたい。
シーガルズそのものは、とても感じのいいクラブに見える。
でも横浜FCは、平凡な成績なのに妙な自己評価の高さだけは一流、そんな不思議なクラブだ。もちろん、それだけなら構わない。でも実際には驚くほど無礼で品がない。詳しくはこちらを見てもらえれば分かる。
シーガルズは、あのクラブと一緒に語られるには惜しい存在だと思う。
とはいえ皮肉なもので、最近はFootball Manager 2026用に自作しているデータベースへ、なでしこリーグの選手をひとりずつ手入力しているせいで、結局シーガルズの選手たちを眺める時間がとんでもなく長くなってしまった。
人生って、たまに妙なユーモアを見せてくる。
この試合で主役になりそうな選手たち
こういうコーナーを書くたびに、あとで少し後悔する。
サッカーは、自信満々に予想した人を笑うスポーツだ。500文字かけて絶賛した選手が35分で交代し、まったく触れなかった選手が25メートルの決勝ゴールを決めてMVPになることなんて珍しくない。
それでも、このカードを考えると、どうしても頭に浮かぶ選手が4人いる。
ピッチで一番の実力者という意味じゃない。
この試合のストーリーの中心にいそうな選手たちだ。
内田瑞穂(スフィーダ世田谷)
「この試合を決める選手は?」と聞かれたら、真っ先に名前を挙げるのは内田瑞穂だ。
今季ここまで9ゴールを決めているから。
スフィーダにとって欠かせない存在だから。
でも一番の理由は、サッカーという競技が「古巣対決」を大好きだからだ。
内田はかつてシーガルズでプレーしていた。今はスフィーダの最前線に立ち、再び古巣と向き合う。自分が彼女に惹かれる理由は、ゴール数だけじゃない。とにかく無駄がない。試合から消えているように見えても、一瞬でピッチの主役になってしまう。
何度もチャンスが必要なFWもいる。
でも内田は、一度あれば十分という空気を持っている。
今季のスフィーダは波がある試合も少なくなかった。だからこそ、試合が張り詰めた空気になった時、一番信頼しているのは彼女だ。
堀江瑞稀(スフィーダ世田谷)
横浜戦の堀江を見るのは、毎回ちょっと楽しみなんだよね。
必ず点を取るからじゃない。
いつも相手に厄介な問題を突きつけるからだ。
実際、そのデータもかなり説得力がある。今季のシーガルズ戦では2ゴール。そしてここ数年も、このカードでは何度もゴールを決めてきた。
内田が「精度」なら、堀江は「破壊力」だ。
相手DFは彼女を前にすると落ち着いてプレーできない。フィジカルが強く、真っすぐ仕掛け、センターバックに「やりたくなかった判断」を次々と迫ってくる。
最近の横浜を見ていて思うことがある。もし守備が少しでも揺らぎ始めたら、真っ先にその隙を見逃さないのが堀江だ。
村上真央(ニッパツ横浜FCシーガルズ)
ここからが、サッカーのちょっと意地悪なところだ。
内田は横浜でプレーしていた。
そして村上は、かつてスフィーダの一員だった。
この対称性、出来すぎなくらいだ。
古巣との対戦になると、選手はみんな「特別な気持ちはありません」と口をそろえる。
でもゴールを決めた瞬間、まるでワールドカップ優勝みたいに喜ぶじゃん。
村上はスフィーダを知っている。クラブも、雰囲気も、そしてきっとピッチで顔を合わせる何人かの選手のことも。
もちろん、それだけで勝敗が決まるわけじゃない。でも正直、ちょっと嫌な予感はする。
長くサッカーを見てきて分かったことがある。元所属クラブの選手って、「今だけは勘弁してほしい」というタイミングで、なぜかちゃんと現れる。
室井胡心(ニッパツ横浜FCシーガルズ)
もし自分が横浜サポーターだったら、一番楽しみに見たい選手は室井胡心かもしれない。
攻撃は、ほとんど彼女を経由して動いているように見える。
シーガルズの試合を見るたびに感じるのは、室井は「何かが起きるのを待つ選手」じゃなく、「何かを起こしに行く選手」だということだ。
この違いはかなり大きい。
力強くボールを運び、積極的にシュートを狙い、まるで「慎重に」という言葉を誰にも教わらなかったみたいなプレーをする。
スフィーダにとって、室井を止めることは絶対条件だ。
前を向いてボールを持たせれば、横浜の攻撃は一気に勢いづく。
逆に彼女を孤立させ、ストレスを与えられれば、シーガルズの怖さはかなり薄れる。
iPhoneが暑さに負けた日

自分が初めてスフィーダの試合を現地で観たのも、相手はシーガルズだった。
2019年、駒沢陸上競技場。
とにかく灼熱の午後だった。
iPhoneが「高温のため使用できません」と表示して、日陰へ避難させろと言ってくるくらいの暑さだった。
Y.MARKETのクラフトビールを飲んだことは覚えている。
汗だくだったことも覚えている。
「なんでこんな日に東京を横断してまで来たんだろう」と思ったことも覚えている。
そして、スフィーダが0-2で負けたことも。
大きな挫折ではなかった。
でも、そういう小さな悔しさほど、意外と長く残る。
あれから7年。また同じカードを迎える。
選手は違う。
監督も違う。
でも対戦カードは同じだ。
サッカーって、結局は順位表付きのノスタルジーなのかもしれない。
夏の暑さと、待ち続けるホーム初勝利
スフィーダにとって、何より欲しいのはホーム初勝利だ。
とはいえ、「ホーム」と呼ぶのも少し不思議な感覚がある。AGFフィールドは本拠地というより仮住まい。駒沢はまだ戻ってこない。放浪生活は続いている。
今季ホーム未勝利。
その流れを変えるのが、この土曜日かもしれない。
シーガルズも決して好調ではない。ここ5試合勝利なし。開幕当初の勢いは少しずつ薄れてきた。
自信なんて、本当に脆い。
積み上げるには何か月もかかるのに、壊れるのは90分で十分なんだから。
戦術的にも見どころは多い。
横浜の攻撃は室井胡心を中心に回る。一方でスフィーダは、内田瑞穂と堀江瑞稀。この2人だけでリーグ16ゴールを積み上げてきた。
決勝点は94分。横浜だった。
あれを忘れた人はいない。
そんなもの、忘れられるわけがない。
予想はしない。ただ願うだけ。
試合予想は、もうしないことにした。
このカードは引き分けも多いし、1点差も多い。そして、毎回どこか少しだけ腹が立つ。
試合が終わるたびに、「最後の10分を違う形で戦えていたら」と誰かが思っている気がする。
だから土曜日の朝8時、自分はまた試合を観る。
コーヒーを片手に。
たぶん暑さに文句を言いながら。
スプレッドシートや戦術ボード、順位表だけでは説明しきれないものと戦う、2つのセミプロクラブを見届けるために。
正直、そのほうがワールドカップの順位計算を延々と語るより、ずっとリアルで面白い。
夏の熱気
また巡り会うライバル
まずはコーヒー


