3時半の判断、賢いと思ったのに
夜遊び明けの午前3時半キックオフ。
深夜0時にはちょっとロマンがある。
でも4時になると、完全に人生の采配ミスじゃん、ってなる。
Wata-Rei Stadiumの配信が立ち上がった頃、体はもう放置された自販機みたいだった。酒は残ってる。睡眠は足りない。冷たい水だけが、頭の中で必死に和平交渉してる。
外のイギリスは真っ暗。
部屋の中では、千葉の海沿いで行われるなでしこリーグの試合を見ている。しかも、集中力ゼロでも食べられる何かを探しながら。
でも正直、他の場所にいたいとは思わなかった。
スフィーダ世田谷は白のアウェイユニ。
第9節。
日本は母の日。
キックオフ前、選手たちはお母さんと一緒に写真撮影。これがまた、サッカー特有の変な感情を連れてくるんだよね。
さっきまで笑顔。家族。優しさ。
次の瞬間、江藤里緒菜が中盤に飛び込んでいく。2009年の居酒屋トラブルでも清算するみたいな勢いで。
サッカー、感情の情報量が多すぎる。
オルカのマスコットも、なんか複雑そうだった。シャチらしいけど、見た目は完全に「黒白なら大体いけるべ」と納期に追われたメーカーが作ったパンダ寄りだった。
根本彩華、風に向かって走る
試合の入りは、こういう早朝観戦にありがちなやつだった。
眠気を誘うくらいゆっくり。
でも寝直せないくらい緊張感がある。
内田美鈴の序盤のコーナー。そこで一気に前のめりになった。
よし、ここだ。
何か起きろ。
オルカは普通に処理した。でもスフィーダの入りは悪くなかった。特に根本彩華。
前半の根本は本当にいたるところにいた。
走る。
つなぐ。
無理やり前に運ぶ。
こういう試合って、なぜか一人だけ完全に起きてる選手がいる。スフィーダでは根本だった。攻撃に出るたび、どこかに必ず彼女が絡んでいる。
問題は、その後。
何も起きない。
クロスは流れる。
パスはズレる。
チャンスっぽいものが、チャンスになる直前で消える。
10分あたりで「かなり労働系の試合」とメモしたけど、結果的に朝の空気そのものだった。
面白いほど荒くもない。
美しいほど技術的でもない。
ただ、千葉の海風の中で、両チームが何度もこじ開けようとしている。
観客は605人。
場所は田舎の小さなスタジアム。
なのに、気づいたら細かい全部に入り込んでた。
サッカーって怖い。
江藤里緒菜と倉庫レイヴみたいなタックル
14分、齊藤桃香がスフィーダをヒヤッとさせる。大塚未央がしっかり止める。あの一発で目が覚めた。酒とか睡眠不足とか関係ない。あれは起きる。
そこからオルカがじわじわ試合に入ってくる。特に江藤里緒菜。中盤での飛び込み方が、もう倉庫レイヴ帰りのエネルギーだった。
あるタックルなんて、ボール奪取というより業務用家具の移動。
当然、レフェリーは流す。
じゃあこっちも行くしかない、という感じで堀江瑞希も強度を上げる。
試合は少しずつピリついていった。女子サッカーのこういうフィジカルって、男子の一部にある見せつけ型のマッチョさとは違う。もっと個人的。小さな接触。遅れたタックル。静かな苛立ち。
みんなが少しずつ「もうお前ら嫌い」になっていく感じ。
そこに金子ゆいがいるのも、不思議だった。
スフィーダで7年。100試合以上。
それが今はオルカのユニフォーム。
ボールに触るたびに見てしまう。
走るたびに気になる。
当たるたびに感情が出る。
選手は感情のないプロです、なんて言う人もいるけど、そんなわけない。
彼女は気にしていた。
オルカも本気だった。
千葉沿岸のメカゴジラ
オルカの守備は、太平洋から上がってきたメカゴジラみたいだった。
重い。
硬い。
機械的。
嫌になるくらい効率的。
こっちは1時間くらい見ながら、どこかで絶対ひびが入ると思ってる。
でも途中で気づく。
そもそも、ひびが入らないように作られてるんだと。
前半はスフィーダの方がボールを持っていた。陣地も取れていた。加藤さあやがハーフタイム前に守備の間をすり抜けかけた場面もあった。
でも最後の最後で崩れる。
それがこの試合の全部だった。
全部、起きそうだった。
でも何も起きなかった。
カメラが引くと、Wata-Rei Stadiumの周りに千葉の田園風景が見える。灰色の空の下で、妙に静か。自分がそこで苦しんでないなら、きっと平和に見える場所。
ハーフタイムの時点では、けっこう前向きだった。
「前半はスフィーダの方が良かった」と書いた。
危ない。
サッカーで楽観は信用しちゃいけない。
温泉上がりの眠気くらい、ふわっと油断させてくる。
試合が傾いた瞬間
後半が始まると、オルカが少しずつリズムを変えてきた。
劇的ではない。
ただ少しだけ直接的。
少しだけ自信がある。
少しだけ遠目から打ってくる。
そしてスフィーダは、じわじわ下がっていく。
説明する前に、体で分かるやつ。
パスが雑になる。
プレスが遅くなる。
根本も右サイドを背負い続けて、さすがに疲れてくる。
オルカがそれを嗅ぎ取る。
57分のメモはこう。
「やばい」
分析ではない。
でも感情としては正確。
大塚未央はしばらく救ってくれた。かなり良かった。落ち着いていて、危ないボールを処理して、風の中から飛んでくるミドルにも反応した。
でも試合全体に、嫌な必然がまとわりついてきた。
片方が優勢な時間に決めきれない。
もう片方が、混乱を待っている。
そして来た。
77分。
オルカのGKから長いボール。
競り合いで負ける。
河野有希が先に反応する。
欲しがる。
打つ。
大塚が触る。
その触った感じが、逆にきつかった。
ボールは残酷に回転してゴールへ。
こっちは沈黙。
オルカは歓喜。
海風だけが吹いている。
ふうん、な。
不運。
でも、完全に不当かと言われると違う。
サッカーは迷いを罰する。スフィーダは朝ずっとチャンスの周りを回っていた。でも本当に殴りに行けなかった。オルカは一つのミスを待ち、その瞬間に仕留めた。
海風は逆に吹いた
ゴール後、オルカは完全に沿岸サバイバル仕様になった。
全員がボールの後ろ。
タックルは鋭い。
ルーズボールは宝物。
見ていて腹が立つ。
でも、ちょっと称賛もしてしまう。
終盤、スフィーダはようやく急いでパスを回し始めた。でもオルカの壁はもう完成していた。アディショナルタイム、内田美鈴が遠目から狙うもGK正面。最後のチャンスになりそうな場面も、誰もこぼれ球に飛び込めずに終わった。
そこで終了。
配信が切れる。
外は少し明るくなる。
部屋には、薄い酒の匂いと失望が残っていた。
悔しい試合だった。
スフィーダは前半の方が良かった。
でも点を取れなかった。
オルカは後半の方が良かった。
そして点を取った。
それがサッカーなんだよな。
決めないと、いつか海風は逆に吹く。
