正確に言えば、あのボールは籾木結花に当たって入ったわけではない。
どうやら、そこは大事らしい。
ウェストハム戦の94分。0-0のまま終わりそうだった時間帯に、籾木がFKをゴール前へ送り込む。ライア・コディナが頭で触った。そして、ボールはゴールへ。
オウンゴール。
サッカーには「誰のゴールか」を決めるための細かいルールがある。でも守る側からしたら、そんなの知ったこっちゃない。
籾木がピッチに入ってから、まだ15分ほどだった。
エヴァートン、1-0で勝利。
その3日後。Subway Players Cupのバーミンガム・シティ戦で、スコット・フェランはもう少し大胆なことを試した。
最初から籾木を使った。
するとエヴァートンは2-0で勝利。籾木は先制点をアシストし、2点目は自分で決めた。
そして次は、アンフィールドでリヴァプール。
となると、エヴァートンをめぐる一番面白い問いは、意外とシンプルだ。
「流れを変える切り札」が、便利すぎてスタメンにしないほうがおかしくなるのは、いつからだろう?
エヴァートンは5位。順調です。たぶん。
WSLは3試合を終えて勝点6。順位は5位。
開幕戦を落としたあと、チャールトン・アスレティックとウェストハムに連続1-0勝利。さらにカップ戦ではバーミンガムにも勝った。3連勝、しかも3試合連続クリーンシートでアンフィールドへ向かう。
いいじゃん。
ただし、ひとつだけ妙なところがある。
エヴァートンがWSLで挙げた2勝。その決勝点は、どちらも相手のオウンゴールだ。
勝点6は勝点6。相手が代わりにゴールしてくれたからといって、リーグから「すみません、勝点返してください」と言われることもない。
とはいえ、エヴァートンの選手が自分の足でリーグ戦のゴールを決める前に5位まで来てしまった。これはこれで、なかなか不思議な話だ。
結果だけ見れば、そのままでいい。
でも試合を見れば、まだ改善できるところはある。
そして籾木の存在が、その話を少し面白くする。
バーミンガム戦で、問いが変わった
ウェストハム戦だけなら、「籾木は途中出場が一番効く」という意見はむしろ強くなっていたかもしれない。
終盤に投入する。試合が間延びして、相手の脚が重くなる。その頃にはDFの脚と頭が別々に交渉を始めている。そこへ籾木をぶつける。
理屈は通っている。
ところがバーミンガム戦では、先発させた。
17分。ザラ・クラムジャルが最終ラインの裏へ走るのを見逃さず、籾木がふわりとDFラインの向こうへ落とす。クラムジャルが頭で合わせ、エヴァートン先制。
そして55分。今度は右から中へ入り、ペナルティーエリア外から左足一閃。ボールは左上の隅へ突き刺さった。
2-0。
まったく違う形から生まれた2ゴール。
ひとつ目は、味方の動きを見つけた。
ふたつ目は、自分が脅威になった。
わずか3日間で、途中出場から試合を決め、先発から試合を動かした。
こうなると「スーパーサブ」という肩書き、戦術的な役割というより、ただ整理しやすいから貼っているラベルに見えてくる。
「スーパーサブ」の落とし穴
サッカーは「スーパーサブ」という言葉が大好きだ。
なんだか、すごく計画的に聞こえる。
創造性のある選手をスタメンから外しているんじゃない。「切り札を温存している」んです、と。
もちろん、それが正解のときもある。
でも時には、「攻撃で一番面白い選手のひとりが先発していない」という事実を、ちょっと格好よく言い換えているだけだったりする。
籾木を最後の20分まで取っておく場合、ひとつ問題がある。
その20分まで、エヴァートンが良い状態で試合を運ばなければならない。
ウェストハム戦では、それができた。
でもアンフィールドなら、最初から「どんな試合になるか」に籾木を関わらせたほうが面白くないか。
疲れたリヴァプールの脚を20分だけ攻める籾木。
それとも、試合開始からリヴァプールに籾木を気にさせ続ける。
どっちが嫌だろう。
リヴァプール戦だからこそ、試してみたい
ギャレス・テイラーのリヴァプールは、前向きにプレーし、前から圧力をかけてくる。
だからこそ、逆にチャンスも生まれる。
籾木は3人をドリブルで抜く必要なんてない。
DFひとりを「どうする?」と迷わせればいい。
右からスタートして中へ入る。するとリヴァプール側には、次々と判断が生まれる。
サイドバックはついていく?
長野風花が横へスライドする?
ジェナ・クラークかグレース・フィスクが前へ出る?
中盤と最終ラインの間で籾木が受けたら、誰が捕まえる?
こういう場所で本当に厄介な選手は、スペースを見つけるだけじゃない。
相手に迷いを作らせる。
DFが一歩出れば、クラムジャルのスペースができる。中盤が籾木へ寄れば、今度は林穂之香へのパスコースが開く。
アンフィールドのリヴァプールは、メカゴジラっぽい。デカい。機械的。きっちり組み上げられていて、真正面からぶつかるとかなり怖い。
だからエヴァートンまで巨大ロボを作って、正面から殴り合う必要はない。
必要なのは、装甲の下にちょっと浮いているパネルを見つけられる選手だ。
その点検係、籾木ならかなり適任じゃん。
そして、FKがある
ダービーというものは、90分ずっと美しいサッカーを見せてくれるイベントではない。
ぶつかる。誰かが怒る。主審がどこかを指さす。スローインに6秒かかっただけで何千人もの人が一斉に文句を言う。サッカー文化の中でも、かなりピンポイントな儀式だ。
だからセットプレーは大事になる。
ウェストハムはもう知っている。
いい位置で籾木にFKを与えると、何が起きるか。
technically、彼女のゴールではない。
はい、また書類上の話です。
でも実際に籾木がやったのは、94分、自陣ゴールを背負ったコディナが「触る?触らない?」を一瞬で決めなければならない、最高に嫌な場所へボールを入れたことだった。
クリエイティブな選手の仕事は、いつも自分で決めることじゃない。
相手を焦らせれば、それでいいときもある。
FKもCKも増えそうな試合で、セットプレーの一番いいキッカーをベンチのビブスの下に隠しておく必要、本当にある?
「必要になってから籾木」では、もう遅い
もちろん、籾木をベンチに残す理由も分かる。
リヴァプールのプレスに対応するにはエネルギーがいる。試合が進めばピッチは広がる。10分にはなかったスペースが、70分には温泉みたいにぽっかり空いているかもしれない。
そこを籾木が使えることは、もう分かっている。
でも先発させるからといって、リーグ連勝を生んだエヴァートンの形を全部捨てる必要はない。
その形の中に、もう少し創造性を入れるだけだ。
エヴァートンのスタートは悪くない。
勝点6。それが証拠。
ただ、リーグ2勝がどちらも相手のオウンゴールという事実を見ると、この攻撃にはまだもう一段ギアがありそうだ。
そして籾木は、この1週間で何度も「試合を変えられる」と証明している。
ウェストハム戦では、試合を変える必要が出てから投入した。
バーミンガム戦では、待たなかった。
17分後には先制点を作った。55分には自分で2点目を決めた。
たぶん、答えはそんなに難しくない。
エヴァートンには攻撃面の課題がある。
そして今、その答えを出している選手がいる。
問題がヤバくなってから使うんじゃなくて、最初から使えばいい。
青きシャツゆく
ラインの狭間に籾木
今度こそ先発



