試合というものは、カレンダーどおりにやって来るものもあれば、なかなか姿を見せてくれないものもある。

本来なら6月、またいつもの土曜の朝になるはずだった。

リーズではコーヒーを片手に。東京では夏の湿気の中で。SFIDA世田谷とニッパツ横浜FCシーガルズがぶつかる予定だった。

でも、台風が全部ひっくり返した。

サッカーって不思議でさ。試合日程なんて絶対に変わらないものだと思ってるのに、自然はそんな思い込みなんて軽く吹き飛ばしてしまう。たったひとつの台風で、この一戦は約6週間先送りになった。

そしてようやく、その日がやってくる。

8月8日、AGFフィールド。

順位表だけ見れば7位と9位の対戦。

でも、この試合はそんな数字だけじゃ語れない。

ずっと待たされてきた一戦なんだよね。

あの頃とは、少し違う景色

延期になったことで、この試合の空気も変わった。

もし6月に開催されていたなら、SFIDAは少しずつ勢いを取り戻し始めていた頃だった。

ところが今、チームは岡山湯郷Belleに0-2で敗れた悔しさを抱えてピッチへ向かう。

ボールは握った。

でも、相手ゴールを本気で脅かせた時間はほとんどなかった。

こういう敗戦が一番モヤモヤする。

圧倒されたわけじゃない。

なのに、「なんでこんなにボール持ってたのに何も起きなかったんだろう」って考え続けちゃう。

一方のシーガルズも決して順風満帆じゃない。

ここ5試合勝利なし。

シーズン序盤には上を狙えそうだったチームも、少しずつ勢いを失ってきた。

両クラブの勝点差は、たったの1。

勝てば上を見られる。

負ければ、少しずつ空気が重くなる。

中位同士の試合って軽く見られがちだけど、この90分は結構デカいじゃん。

矢口真優という、新しい物語

6月と8月で、一番変わったこと。

それはSFIDAの中盤に矢口真優がいることかもしれない。

延期が決まった頃、彼女はまだこの物語の登場人物じゃなかった。

でも今は違う。

むしろ、一番気になる存在になっている。

「この決断と過去の自分を肯定できるように頑張りたい。」

ジェフユナイテッド市原・千葉レディースを離れ、SFIDA加入時に残した言葉だ。

最近の移籍コメントっぽくない。

「新しいチャレンジです」とか、「ワクワクしています」とか、そういう綺麗な言葉じゃない。

もっと自分自身に向けた宣言だった。

20歳。

WEリーグという舞台を離れ、彼女が選んだのは、多くの若い選手が何年も求め続けるもの。

出場時間。

毎週ピッチに立つこと。

失敗できる環境。

そして、本当に成長できる場所。

SFIDAのサッカーとの相性も良さそうだ。

派手にゲームを支配するタイプじゃない。

でも角度を作る。

ボールを落ち着かせる。

危険を一歩早く察知する。

攻撃を止めない。

そういう仕事を、静かに積み重ねていく。

実は、一番賢い選手ほど目立たない。

でも、いなくなると急に分かる。

「あれ、この選手かなり効いてたじゃん」って。

先発でも途中出場でも、この試合はサポーターが矢口真優という選手を知る最初の90分になるかもしれない。

因縁って、意外と消えない

このカードは昔から少し複雑な気持ちになる。

横浜に住んでいたこと。

横浜F・マリノスを応援していること。

そしてサッカーは、こういう再会を何度も用意してくる。

内田水珠はシーガルズで数年間プレーしたあと、今ではSFIDAのエースストライカーになった。

今季リーグ戦9ゴール。

チャンスを何度も必要とするタイプじゃない。

半分あれば十分、くらいの決定力がある。

一方で、逆の立場なのが村上真央。

元SFIDA。

今はシーガルズ。

サッカーは「古巣戦なんて関係ない」と言いたがる。

でも実際は、結構あるじゃん。

だからこの試合には、変な敵意じゃなく、少しだけ特別な熱がある。

忘れられない90分になりそうだ。

試合を動かす4人

プレビューを書くたびに思う。

予想しすぎると、サッカーに笑われる。

それでも注目したい4人はいる。

まずは内田水珠。

試合が膠着した時、一発で流れを変えられる選手だ。

その隣には堀江美月。

内田が「精密さ」なら、堀江は「カオス」。

今季シーガルズ戦では2得点。

横浜のセンターバックからすれば、90分ずっと相手したくないタイプだ。

シーガルズでは、やっぱり室井心。

このチームの心臓みたいな存在。

前を向けば、一気に試合が動く。

SFIDAとしては、彼女にゴール方向を向かせないことが最優先になる。

そして村上。

古巣戦って、誰も気にしてないって言う。

でも、だいたい気にしてる。

そこも含めて、この試合は面白い。

AGFフィールドを、本当のホームへ

この試合には、もう一つ意味がある。

SFIDAはまだAGFフィールドでリーグ戦ホーム初勝利を挙げられていない。

ホームと言いながら、どこか仮住まいのような感覚も残る。

駒沢はまだ戻ってこない。

だから今のAGFは、「帰る場所」というより、一時的な住所なんだ。

でもサッカーって、案外そんなものかもしれない。

サポーターが集まる場所が、ホームになる。

土曜日は、その場所を本当のホームに変えるチャンスだ。

夜には味の素スタジアムでFC東京対FC町田ゼルビアも行われる。

東京サッカーのダブルヘッダーに挑戦することもできなくはない。

とはいえ、キックオフ時間を考えれば両方を最初から最後まで観るのは、なかなか厳しい。

そして、それでいいと思う。

AGFフィールドへ行くなら、優先すべきはSFIDA世田谷。

最後の笛までしっかり応援して、FC東京はあとでYouTubeのハイライトを観ればいい。

SFIDA世田谷として戦う最後のシーズン。

だからこそ、このチームを目いっぱい後押ししてほしい。

FC東京は、これから先もずっとそこにある。

でも、このSFIDA世田谷は、今しかない。

…もっと細かく知りたい人は、先月公開したプレビューもぜひ読んでみてほしい。

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