王冠が多すぎる。酸素が足りない。
ゴングが鳴る前から、もうリング周辺の空気がパンパンだった。
別に“いい意味でカオス”とかじゃない。空港で遅延した便が全部同じゲートに押し込まれた時みたいな、あの逃げ場のない混雑感。そんな感じ。
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ペイジが出てきた。ブリー・ベラも出てきた。そこへFatal Influence。さらにナイア・ジャックス。ラッシュ・レジェンドまで登場。
全員が全員の声を上書きしていく。女子ディビジョン全体が、なぜか駐車場問題で揉めてる市議会みたいになってた。
正直、かなりややこしい。
でも、その騒音の下にはちゃんと“試合”がいた。
「結局レスリングって、誰かが喋るのをやめて、別の誰かをバリケードに投げ飛ばした瞬間が一番面白いんだよな」
そんなことを静かに待ってる感じだった。
そして入場。
Fatal Influenceが揃いのギアで並んだ瞬間、空気が変わった。
やっぱりプレゼンテーションって大事なんだよね。
ジェイシー・ジェイン、ファロン・ヘンリー、レイニー・リード。
ただ並べられた3人じゃない。完全に“ユニット”だった。
カラーリング。シルエット。立ち方。視線。
全部揃ってる。
最近のWWEって、7秒ごとに視線を奪わないと観客の集中力がどっか行っちゃうじゃん。派閥なんて、ちょっと嫌味っぽいバックステージプロモ2回くらいで崩壊しがちだし。
その中でFatal Influenceは、まるで“現代テレビレスリング生存用メカゴジラ量産ライン”みたいだった。
一方で、対角線にいたチームはウェイド・バレットの実況そのもの。
「CEOが3人いる会社みたいなもんだよ。で、トイレ掃除は誰がやるんだ?」
めちゃくちゃ笑った。
でも、それ以上に“正しい”ラインだった。
リア・リプリー。
シャーロット・フレアー。
アレクサ・ブリス。
全員が主役級。
全員が重力。
“中心”でいることに慣れすぎてる人たち。
なのに、この試合はその緊張感を15分くらい本当に美しく使っていた。
制御された崩壊、その妙な美しさ
先発はアレクサ・ブリスとファロン・ヘンリー。
ここで一気に空気が少し変になった。レスリング特有の、誰もツッコまないまま成立する“妙なバカバカしさ”。
アレクサがファロンを倒す。
そのあと、ベラ・ツインズっぽいお尻ネタの挑発。
「母親になってもテレビでふざける才能は消えてません」
そういう宣言に見えた。
でもファロン、かなり良かった。
体の見せ方が上手い。カメラ理解してるレスラーって感じ。全部が落ち着いて見える。
アレクサも序盤からかなりキレてた。昔より動きにスナップがある。
ファロンは硬めのコーナーストンプで返す。観客を起こすには十分。
そこへジェイシー・ジェイン。
ここで試合が一気に締まった。
ジェインって、“ずっと過小評価されて、その領収書を全部保管してた人”みたいなレスリングするんだよね。
今の動き、全部に意味がある。
派手すぎない。
無駄がない。
冷たい。
次に入ったレイニー・リードも凄かった。
いや、正直この試合、一番持っていったかも。
大げさじゃない。売り方を見ればわかる。
リアの攻撃全部が“事故”みたいに見えた。
理由は、反応を半秒だけ遅らせるタイミング。
あの一瞬。
胸へのキックを食らったあと、遅れて吹っ飛ぶ感じ。
レスリングって、結局そういう細部で生きてる。
しかも態度が最高に失礼。
エプロンからリアとシャーロット煽る。
自分のお尻叩く。
えげつないクルシフィックス・ガットバスター。
さらに突然シャーロットにウサギ耳。
なんなんだよ、そのウサギ。
でも、だから良かった。
なんか昔飼ってたウサギ思い出した。普通のウサギって、ずっと税金の心配してる顔してるじゃん。あいつは違った。
まあいいや。
そのあとレイニーがアレクサへのラリアットを外した瞬間、リア・リプリー投入。
完全に緊急防衛システム起動。
リア・リプリー、まだ別次元
今のリア・リプリー、レスラーとして完成度が怖い。
完璧じゃない。そんな人いない。
でも“完成してる”。
レイニーへのスーパーキック。
異常に綺麗。
そこからダイビングドロップキック。
さらにミサイルドロップキック。
パワーと空中技の切り替えがどんどん自然になってる。
これが“人気選手”と“本物のトップ”を分ける部分なんだよな。
しばらく試合は完全にリアのものだった。
そしてレイニー・リードは、そのスピードについていった。
これ、かなり重要。
リアのシークエンスで“生き残る”レスラーはいる。でも“さらに良くする”レスラーは少ない。
その一方でシャーロット・フレアーは、長時間コーナーで「人類そのものにあまり興味ないです」みたいな顔して立ってた。
でもそれ、キャリア通してずっと面白いんだよな。
そしてCM。
どれだけ感情が盛り上がっても、最後には資本主義が来る。レスリングってそういう世界。
シャーロット・フレアーとジャクソンビルの爆発
SmackDownが戻ると、Fatal Influenceは完璧にリアを孤立させていた。
王道のユニットレスリング。
リングを半分に切る。
流れを潰す。
大物を救済から遠ざける。
レイニーがアレクサをエプロンから落としながら決めた変形ネックブリーカー、めちゃくちゃ良かった。リングの使い方が上手い。
しかもずっとシャーロットに口撃してる。
その積み重ねで、観客が“ホットタグ”を待ち始める。
そして来た。
ジャクソンビル、大爆発。
シャーロット・フレアー登場。
遅れて来てディナーパーティー全部壊す人みたいだった。
チョップ。
ウォークオーバークローズライン。
クロスボディ。
ダブルNatural Selection。
観客、完全に乗ってた。
こういう瞬間をWWEはずっと作りたがってる。でも最近はLED演出とかキャッチコピー頼りで、本物の熱狂ってなかなか生まれない。
でもこの時間は違った。
ちゃんと“積み上がった”熱。
数分だけ、この試合は本当にデカかった。
派手だからじゃない。
構造が機能してたから。
その後、アレクサが再投入。
ステレオNatural Selection狙い。
Fatal Influenceのダブルスーパーキック。
Rolling Encoreフェイント。
シスター・アビゲイル切り返し。
ロールアップ。
リーピングネックブリーカー。
全部速い。でも整理されてる。
そしてWWEは思い出す。
「あ、これWWEだったわ」
ジェイド・カーギル、そして空気の崩壊
アレクサがコーナーへ這う。
リアが手を伸ばす。
そこへジェイド・カーギル。
本来なら大歓声の場面。
でも実際は、“渋滞”だった。
今の問題って才能じゃない。努力でもない。
渋滞。
全員が同じ感情スペースを奪い合ってる。
ジェイドがリアをエプロンから落としたことで、アレクサが孤立。
そこへジェイシー・ジェインのRolling Encore。
3カウント。
ジェイン、また大きな勝利。
Fatal Influence、本当にSmackDown最高クラスのユニットになり始めてる。
…なのに、その直後。
ポストマッチで全部飲み込まれた。
ミチン登場。
B-Fab登場。
全員乱闘。
シャーロットはアレクサを助ける。
リアは一瞬リングを片付ける。
そのあとジェイドのビッグブーツ。
正直、あんまり良くなかった。
そして、ここで空気が完全に変わった。
わかるレベルで。
Fatal Influenceが去った瞬間、ジャクソンビルの観客が感情的にログアウトした。
ドリンク買いに行く人。
スマホ見る人。
会話始める人。
歓声が消えた。
これ、“ヒールへの熱”じゃない。
疲労感。
別物。
ジェイドがリングでポーズ決めた時もブーイングはあった。でも“盛り上がってるブー”じゃない。
「悪役を倒してほしい!」じゃなくて、
「このセグメント、そろそろ終わらない?」
そっち。
厳しいかも。でも本当。
もちろんジェイド・カーギルの見た目は異常にスター。そこは否定しようがない。
でもレスリングって、いつか“オーラだけ”では支えられなくなる。
試合。
テンポ。
存在感。
全部必要。
今のジェイド、時々“物語を動かしてる人”じゃなく、“後からシーンに追加された人”に見えちゃう。
そういう見方もある。
本当の勝者はFatal Influenceだった
不思議なのは、この夜、本来なら完全にFatal Influenceの夜だったこと。
ジェイシー・ジェインは完全にリーダー。
ファロン・ヘンリーは安定感。
レイニー・リードは大ブレイク。
物語も綺麗だった。
孤立したメガスターたちを、統率されたユニットが飲み込む。
でも今のレスリング会社って、“静けさ”を怖がるんだよね。
誰かが誰かを邪魔しなきゃいけない。
次の抗争を匂わせなきゃいけない。
誰か新しい人を画面に入れなきゃいけない。
そうしてるうちに、観客は感情を置いていく。
呼吸する時間がないから。
15分間、この試合は本当に生きてた。
そのあと、また機械が戻ってきた。
