朝5時。アラームが鳴る。優しくなんてない。あの、容赦なく現実に引き戻してくる音。
イギリスの日曜の朝。ほとんどの人はまだ寝てる時間。それでも起き上がる。
こっちは長くてしんどい24時間を終えたばかりで、体は疲れてるのに頭だけ冴えてる。そんな状態で、それでもスフィーダ世田谷を見るために暗い部屋で体を起こす。
そういうクラブなんだよな。
来させるんだよ。ちゃんと。
ノートPCを開く。コーヒーはほぼ手つかず。
味の素フィールド西が丘のピッチが映る。東京の昼の光に照らされた、あの不自然なくらい綺麗な緑。
こっちは灰色の朝。向こうは午後の太陽。木漏れ日がピッチに揺れてるのに、こっちの部屋は静まり返ってる。
気づいたら猫も横に来てる。いいやつ。
でも、すぐに引っかかることがある。
今季、これで3つ目のホームスタジアム。
これ、軽く見られがちだけど結構大きい。ホームって場所だけじゃない。音とか、空気とか、繰り返しとか、そういう積み重ね。
それが崩れると、サポーターも選手もズレる。
2027年の合併も近づいてる中で、「今季がスフィーダとして最後のシーズン」っていう感覚が、こういうところで重くのしかかってくる。
FC東京はその時でいい。
今はまだスフィーダ。
ちゃんと見届けたい。
キックオフ直後から、いつも通り
始まってすぐ、前に出る。
2分。縦に長いボール。少し焦り気味で、キーパーにそのまま。
3分。VONDSはまだキーパー以外ほぼ触ってない。
思わず声に出る。
3分ちょっとで、「あ、触ったな」ってなる。
4分くらいには、もう見えてくる。
VONDSはバラバラ。昇格組そのままの苦しさ。整ってないし、落ち着きもない。
ここまで7戦全敗。それも納得の入り方。
でも、サッカーは甘くない。
7分。坂倉琴音のスピード。
9分。増田沙弥のシュート。ヒヤッとする。
10分あたりで、じわっと試合に入ってくる。
ここでいつも思う。
スフィーダ、試合をコントロールしないんだよな。
崩すんだよ。
浜田サッカーってこういう感じ。感情で押すプレス。整えるより揺らす。
ハマるとめちゃくちゃ気持ちいいけど、外すと一気に怖くなる。
北川心音が抜け出す。止められる。惜しい。
彼女は「来た瞬間」に反応するタイプ。待たない。
でも、その後が続かない。
CKは雑。シュートは精度が足りない。押してるのに決めきれない。
そして、VONDSのGK。
佐藤瑠美奈。デビュー戦とは思えない落ち着き。
忙しいけど、慌てない。こぼさない。崩れない。
だからこそ、このあとが“事故”じゃなくて“必然”に見えてくる。
「綺麗じゃない。でも、1点は1点」
27分くらい。
やっと動く。
堀江瑞稀がまた残す。彼女はゴール決めなくても試合を動かす。
いるだけで相手の形を崩す。
右から展開。
根本彩華 → 加藤沙耶 → クロス。
ゴールは…正直、綺麗じゃない。
小堀奈緒に当たって、堀江に当たって、そのままネット。
思わず笑う。
ちょっとだけ、ほっとする笑い。
「綺麗じゃないけど、ゴールはゴール」
ほんとそれ。
こういう試合は内容じゃない。結果。
堀江が絡めば、何か起きる。それがまた証明される。
でも、ここで終わらせられないのがスフィーダ。
落ち着かない1–0
ボールは持つ。でも支配してる感じじゃない。
セットプレーは形にならない。
VONDSは混乱してるのに、たまに来るカウンターでちゃんとシュートまで持ってくる。
この感じ、嫌なやつ。
いつものやつ。
94分のあれ。
前半終了。1–0。
安心できるスコアじゃない。ただの“途中”。
ハーフタイム。
大東真美が「リフレイン」を歌う。
マスコットが踊る。
観客は多くない。でも温かい。
なんか、リーグそのものが言ってる感じがする。
それでも続けろ、って。
試合を決めた2点目
後半も入りはいい。
でもVONDSもやろうとしてくる。
その中で一番目立つのが玉田愛莉。
ずっといる。
守って、運んで、また戻る。
1人で2人分やってる。
こういう選手がいるチームは、簡単には沈まない。
ただ、65分。
一瞬で変わる。
北川がチップ。感覚だけでやってるやつ。
完璧。
そこにいるのが内田瑞己。
速さじゃない。予測。
落ち着いて決める。
2–0。
やっと座り直す。
内田はゴール以上の存在。
流れそのものを止める。
32歳でこれをやる。
決定率72.7%。意味が分からないレベル。
この1点で、試合の空気が変わる。
これは「追加点」じゃない。
これは「上昇」。
締める、ということ
残り20分。
VONDSは諦めない。
CK、こぼれ球、ロングボール。
何回か危ない。
でも守る。
GKがしっかり収める。
クリーンシートへの執着、感じる。
交代。時間の使い方。
少しずつ、覚えてきてる。
試合終了。
2–0。
連勝。
順位は8位。
この朝が意味してたもの
VONDSはまだこのレベルじゃない。
7戦0勝。それがすべて。
でも、この試合はそこじゃない。
スフィーダが「耐えるチーム」から「進むチーム」になれるか。
完璧じゃない。
支配もできてない。
正直、もっとコントロールしてほしいって思う。
でもシーズンって、完成度じゃない。
方向。
その方向が、今は上向いてる。
急じゃない。
でも確実に。
次はオルカ鴨川。
2ポイント差。
5位。
もう「耐えるシーズン」じゃなくなってきてる。
PCを閉じる。
イギリスの朝が始まる。
眠い。
ちょっと安心してる。
そして何より。
久しぶりに、楽しみになってる。
さあ、スフィーダ。
