スフィーダ世田谷 vs 愛媛FCレディース: トモズマッチ、奇跡のノートPC生還、そして渡辺菜々

トロフィーを勝ち取るから応援するクラブがある。

家族が応援してきたから、自分も応援するクラブがある。

そして、スフィーダ世田谷FCがある。

世田谷区のクラブ。なのに、なぜかまともな大人たちをとんでもない時間に起こし、日本女子サッカー2部のセミプロチームに感情を全部持っていかせる。そういうクラブなんだよな。

これはトモズマッチだった。

スフィーダの選手たちの中には、平日は普通の仕事をしながら、日曜日には女子サッカーのユニフォームに袖を通してクラブを背負う選手がいる。その最高に不思議で、最高に愛おしい現実を祝う試合でもあった。水曜日にアレルギー薬を売っていた人が、日曜日にはストライカーをマークしているかもしれない。歯磨き粉選びを手伝ってくれた人が、3日後にはゴール寸前のボールをクリアしているかもしれない。サッカーって、こういうところが温泉みたいにじわっと沁みるじゃん。

実際にトモズで働いている松原萌乃は、そのトモズがスポンサーを務めた午後にリーグ戦初スタメンを任された。偶然にしては、ちょっと出来すぎていた。  

舞台は味の素フィールド西が丘

ミスの音が響くスタジアム。

指示の声までサポーター席に届く距離のスタジアム。

この試合を迎えるまで、スフィーダが5シーズン負けていなかったスタジアム。

10勝。3分。9回のクリーンシート。

要塞は、まだ崩れなかった。

The Match I Nearly Missed

残念ながら、ライブでは見られなかった。

仕事じゃない。

遠征でもない。

危うくノートPCが死にかけていたからだ。

朝6時。いつものルーティンで起きた。

コーヒー。

なでしこリーグ公式YouTube。

そして感情のジェットコースター。

そのはずだった。

ところが目の前にあったのは、水浸しのノートPCだった。

夜中、家具がプロレスのヒールターンみたいな雑さで崩壊。気づけば満タンだったグラスの水が全部PCへダイブしていた。

そこから数時間、完全にパニック。

それでも助かった。

長年貼り続けたアニメステッカーとクラフトビールのステッカーたちが、小さな消防隊みたいに水分を吸い込んでくれたらしい。

信じられないことにマシンは生還した。

温泉上がりみたいにヒヤヒヤしたけど、生き残った。マジで奇跡じゃん。

謎の4-2-4

キックオフ前、真っ先に目に入ったのはフォーメーションだった。

表記上は4-4-2。

でも実際は違う。

どう見ても4-2-4。

しかも本気の4-2-4。

Football Managerで「超攻撃的」を押したあと、「自分はアリゴ・サッキの生まれ変わりかもしれない」と勘違いした時に生まれるやつだ。

濱田隆司監督が意図したのか。

それとも状況に押し込まれたのか。

そこは分からない。

ただ試合を通して明らかだったことがある。

中盤がかなり苦しかった。

スフィーダが前へ出ればスペースが空く。

ボールを失えば構造が消える。

面白い。

怖い。

そして時々、何を見ているのか分からなくなる。

試合後、濱田監督自身もかなり苛立ちを隠していなかった。

「スコアレスドローという結果でしたが、内容的には完敗に近い試合でした」

正直なコメントだった。

たぶん、正直すぎるくらいに。

根本彩花が最初の火をつける

最初のポジティブな場面は開始3分。

根本彩花が素晴らしいボールをボックス内へ送り込んだ。

最初の危険はクリアされたものの、田口真彩がこぼれ球を拾ってシュート。

わずかに枠の上だった。

序盤のスフィーダは悪くなかった。

むしろ落ち着いていた。

でもサッカーってさ、平和な時間を長く続けてくれない。

愛媛FCレディースが少しずつ流れを掴み始める。

最初の警告は黒岩沙和。

鋭いシュートが飛び、ここで大塚美緒が反応した。

このプレーが試合の空気を変えた気がする。

そこから先は愛媛の方が危険な匂いを漂わせていた。

大塚美緒と「失点拒否」の技術

大塚美緒は、この日のスフィーダを救った選手の一人だった。

派手なセーブを連発したわけじゃない。

でも要所で止める。

危ない場面で触る。

相手の勢いを切る。

そんな仕事を90分続けた。

GKって不思議だ。

目立たない日は存在感が薄い。

でも目立つ日は、だいたい何か大変なことが起きている。

この日の大塚は後者だった。

愛媛が前へ出てくるたびに立ちはだかる。

キングギドラみたいに次々と頭を上げてくる攻撃を、一つずつ叩き落としていった。

スコアは0-0。

だけど、その0には大塚の手が何度も触れていた。

試合後に振り返れば勝点1。

ただ内容だけを見れば、スフィーダにとってかなり重たい90分だった。

それでも。

負けなかった。

崩れなかった。

勝てなかった悔しさは残る。

でもリーグ戦って、ときどきこういう日もある。

内容で押されても勝点だけは持ち帰る日。

美しくない。

エモくもない。

だけどシーズンを生き残るチームって、案外こういう試合を積み重ねるんだよな。

11人の渡辺菜々を夢見る

スフィーダに限って言えば、この日のピッチで最高のフィールドプレーヤーは渡辺菜々だった。

しかも結構な差で。

サッカーファンって守備をちょっとロマンチックに語りがちなんだよね。激しいタックルは全部英雄譚になるし、クリアひとつで戦争を生き抜いたみたいな話になる。

でも今回はそうじゃない。

渡辺は本当に別格だった。

90分間ずっと、一歩先の世界を見ているみたいだった。パスコースができる前に潰す。周りを動かす。危険が大きくなる前に消してしまう。愛媛が何か作れそうになるたびに、渡辺が現れて静かに解体していく。

面白いのは、彼女の守備にはドラマがないことだ。

あるのはプロセス。

クラブ公式サイトの写真では明るい金髪で、まるでサッカーアニメの主人公みたいに見える。でも今はその金髪もほとんどなくなった。

成長物語の主人公というより、何年も他人の問題を片付け続けてきた副キャプテンの顔だ。

そして偶然にも、この試合でやっていたこともまさにそれだった。

ある場面ではスライディングタックルを決めた。

あまりにも完璧すぎて少し失礼なくらい。

また攻撃が消える。

またピンチが消える。

また愛媛のチャンスが静かに消えていく。

今シーズン序盤、自分は彼女の守備をフェナー・ダンロップのコンベヤーシステムみたいだと書いた。

正直、その例えは今でも生きている。

危険が来る。

菜々が処理する。

危険が消える。

慌てない。

騒がない。

ただ淡々と終わらせる。

まるで相手の攻撃が生産ラインを流れる製品で、最後には処分される運命だと最初から決まっているみたいに。

そして何より驚いたのは、それが最後まで続いたことだ。

後半アディショナルタイム。

周囲の選手たちが冷たい飲み物と休憩を欲しがっているように見える時間帯でも、渡辺はまだ前へ走っていた。

まだオーバーラップしていた。

まだ次の仕事を探していた。

その頃には自分の中で結論が出ていた。

🎵 11人の渡辺菜々を夢見る。 🎵

バカげている。

でも完璧だ。

そして、この日のパフォーマンスを見たあとだと、その発想もそこまで非現実的には思えなかった。

ドラゴンクエスト・フットボール

試合が長くなるほど、不思議なゲームになっていった。

だんだん中盤が消えていく。

ボールは行ったり来たり。

誰も支配できない。

気づけば試合はまるでJRPGだった。

スフィーダのターン。

終了。

愛媛のターン。

終了。

またスフィーダのターン。

そんな感じ。

なぜこうなるのか。

セミプロのサッカーには独特の事情がある。

仕事がある。

移動がある。

そのうえでサッカーがある。

疲労は単なる体力の問題じゃない。

戦術そのものになる。

終盤になると形より生存が優先される。

この日はまさにそんな午後だった。

内田瑞穂は最後まで戦う

スフィーダのエース、内田瑞穂には決して多くのチャンスが届いたわけじゃなかった。

きれいなボールも少ない。

でも戦うことだけはやめなかった。

34分頃のプレーが象徴的だった。

左サイドでボールを受ける。

周囲のサポートは少ない。

ゴールまでの道もほとんど見えない。

普通なら戻す場面。

でも内田は行った。

とにかく前へ。

後半にはGK藤田萌香への猛プレスから決勝点になりそうな場面も作った。

結果的に得点にはならなかった。

でも姿勢は残った。

証拠なんてなくても「次はある」と信じ続けるFWには、どこか心を動かされるものがある。

オフサイド黙示録

この試合を語るうえで避けられないテーマがある。

オフサイドだ。

まず愛媛が引っかかる。

何度も引っかかる。

そのうちスフィーダも同じ呪いにかかる。

最大の場面は83分だった。

愛媛が見事な形で崩す。

ボールはネットへ。

歓声が上がる。

スコアボードも一瞬動く。

そして。

副審の旗。

ノーゴール。

混沌、継続。

誰もよく分からなかった引き分け

試合終了。

スコアは0-0。

納得できるような。

できないような。

そんな結果だった。

チャンスの数は愛媛。

守備の安定感はスフィーダ。

愛媛は何度もゴールへ迫った。

でもオフサイドと大塚美緒に止められた。

スフィーダはリズムを掴めなかった。

それでも最後まで立っていた。

だからこそ、試合後の濱田監督があれほど悔しそうだったのかもしれない。

クリーンシートは本来ポジティブなものだ。

でもこの日は違った。

達成感より生存。

そんな90分だった。

それでも生き残ることには価値がある。

スフィーダは西が丘で無敗継続。

要塞はまだ落ちていない。

クリーンシートは今季3試合目。

サッカーの内容は時々、説明書をなくした人たちによる戦術実験みたいになっていたけど、それでも勝点1は勝点1だ。

シーズンは折り返し地点。

少なくとも今は、降格争いのど真ん中へ飲み込まれずに済んでいる。

最後にひとつだけ

最後に少しだけ。

この記事を書いている途中、試合中にスフィーダの選手へ向けられた心ない言葉について触れているサポーターの投稿をXで見かけた。

自分は配信でその場面を聞いていないし、詳しい経緯も分からない。

だから断定的なことは言えない。

ただ、誰かが公の場で声を上げるほど気になった出来事だったのなら、一度立ち止まって考える価値はあると思う。

選手たちは遠い世界の有名人じゃない。

平日は仕事をしている人もいる。

学校へ通う人もいる。

それぞれの日常を抱えながら週末になるとクラブのために走っている。

意見があるのは当然だ。

不満もある。

議論だって必要だ。

でも個人への暴言は何も生まない。

ユニフォームの向こうには人がいる。

それだけは忘れないでほしい。

熱く応援する。

意見が違っても敬意は持つ。

そして何より、お互いに優しくあること。

スフィーダ世田谷には、そんな空気が似合うじゃん。 ⚽💙🖤

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